田瀬法律事務所の日記

2013年10月25日 金曜日

最強の弁護人

先日の朝の情報番組で、一審の裁判員裁判で出された死刑判決が高裁で破棄されて無期懲役になったニュースの後追い報道をしていました。
千葉大学に通う女子大生が刑務所を出所して間もない男に金品を強奪された後に殺害され、遺体が燃やされたという極めて残忍な事件です。
犯人の男は、その事件の前後に強盗傷害、強盗強姦などの非道な犯罪を繰り返していたため、更生の可能性無しと判断され、一審では死刑判決が下ったものであります。
しかし、高裁は、犯行は計画性がなく殺意は現場で生じたものであり、そのような場合は被害者が1名である場合死刑を言い渡すことは先例に反するとして、一審の裁判員裁判での死刑判決を破棄して、無期懲役を言い渡しました。
情報番組では、被害者の親のどうしようもない怒りを放映していたが、親からすれば裁判員が様々な角度から検証し言い渡された死刑判決が、いとも簡単に職業裁判官らによって覆されたことは到底納得できないだろうと思います。
新聞や他のテレビ番組なども、この高裁の判決には疑問を呈するような報道が多かったように思います。
確かに計画性のない強盗殺人で被害者が1名の場合は死刑にしないというのが先例かもしれませんが、犯人はこの犯行の前後に凶悪非道な強盗傷害、強盗強姦などの犯罪を犯しており、しかも長期間服役した後に出所してすぐに凶悪事件に手を染めているわけですから、最早人間の皮をかぶった野獣と言っても良く、社会防衛の見地から当然死刑が言い渡されるべきでしょう。
犯人の弁護人が犯人の死刑を回避するために様々な理屈を述べるのは、それは弁護人の職責であり、当方も死刑判決を受けた犯人の弁護人を担当した経験があり、その経験からもこれは問題ないように思います。
しかし、この判決(高裁判決)では、裁判官が実質的に弁護人の役を果たしているようなものではないでしょうか。
裁判官はスポーツの世界の審判と同じですから、野球で例えるなら審判が塁上を駆け抜けようとする走者の進路を妨害するようなものであり、ボクシングで例えるなら強打を浴びてダウンしたボクサーの腕を取って抱き起こすようなもので、それは殆ど漫画というかギャグの世界です。
まさに、この裁判で犯人の男は、裁判官という無料で最強の弁護人に弁護されて死刑判決を言い渡されることを回避できたと言うべきでしょう。
この最強の弁護人は、おそらく日本中の弁護士が束になっても適わないくらいのスーパー弁護人です。
裁判員は、法律に精通していない一般市民によって構成されるため、明らかな判断間違いをしないように、職業裁判官も3人入っており、3人の職業裁判官のうちの1人が裁判員の結論を支持すれば、それが判決の結論となります。
それは、感情に流され、不当に重い判決を下すことを防ぐもので、正しい制度だと思います。
もとより、裁判員裁判は、裁判に出来る限り市民の感覚、意見を反映させるために設けられた制度です。
この事件は、若干死刑か無期か、職業裁判官でも意見が分かれるような微妙な事案かもしれません。
しかし、裁判員が様々な観点から検証した結果、死刑の判断をしたのですから、先例に反するという極めて抽象的な理由でその判断を覆すことは、裁判員裁判を司法府が自ら否定するようなものと言っても過言ではないかもしれません。
最高裁の判断が注目されます。

投稿者 田瀬英敏法律事務所(恵比寿の弁護士) | 記事URL

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